山行きて仏きざむによきほどの岩がありたり夕あかり差す 吉川宏志
花よりも好き三月のあぢさゐの枯れ枝に吹くさみどりの芽が 花山多佳子
洛中の水を象り花は咲く途切れて闇は灯るがごとし 永田淳
くもり日の蓬莱橋の灯は消えず由なく疏水にひかりを落とす 黒木浩子
まろやかな白があらはな辛夷なり風はつかのまからまつて去る 小田桐夕
「日向」「日影」ふたつ集落過ぐれどもどちらもひとりの人にも会わず 加藤武朗
この山に棲むものがいる転がれるトチの実どれも中は空っぽ 加藤武朗
白梅は散りゆくものを葉がくれの椿のつぼみ咲きのこりたる 高原五尺
暖かき雨に樹梢はくろぐろと墨絵の桜朝に佇む ヤスイシンゴ
早咲きか多に開きし紅椿寒のもどりし曇り日に染む 沢本ひろみ