3 塔

「塔」2025年7月号 十首

山行きて仏きざむによきほどの岩がありたり夕あかり差す 吉川宏志花よりも好き三月のあぢさゐの枯れ枝に吹くさみどりの芽が 花山多佳子洛中の水を象り花は咲く途切れて闇は灯るがごとし 永田淳くもり日の蓬莱橋の灯は消えず由なく疏水にひかりを落とす 黒...
2 かりん

「かりん」2025年7月号

思ひ出さねば人はどんどん淡くなる誰かのなかのわれの暮れ色 馬場あき子騎馬戦の開始を告げるピストルが撃ち抜くものは空のみであれ 貝澤駿一そこぢから自己を肯定する力強くなれよと烏賊刺しを噛む 山口真知子新入りの涙を拭こうとベテランの二歳児いそぐ...
1 未来

「未来」2025年7月号 十首

花柄のはだらに落つる藤棚の下なる闇に木漏れ陽は揺る 大辻隆弘ふくかぜはかをりをはこび枯れ葦の茎うちあへるおとのやさしき 山田富士郎軽く泛び(水か船ぞこ圧してくるやうな夜な夜な考へ続く) 紀野恵我は我の枯野をつくる 軽く泛び<単純>を指し馳す...
3 塔

「塔」2025年6月号 十首

地に落ちしものは汚れて木のうえにまだ白き掌てのように咲きおり 吉川宏志撓む枝のかかぐる蕾それぞれにほどけはじめて白木蓮は 花山多佳子大航海時代にここより発つちし者思えば我の血も騒立てる 三井修朝六時下弦の月の南天にありて地球とともに陽を浴ぶ...
2 かりん

「かりん」2025年6月号 十首

硝子コップにひかりは宿りうごきをり人のゐぬ卓にほほゑみがある 川野里子回天はあまりに細い長生きをしすぎた大人が入れぬように 芳山三喜雄湖うみ深く地球の年表閉ぢ込めて七万年ここに水月湖あり 西村礼子鉛筆の芯懇ろに削りゆく木のかをり良し春の待た...
1 未来

「未来」2025年6月号 十首

夜半床にひびかふ杖はわが母が鈍くこの世を渡りゆく音 大辻隆弘永遠に水をたたふる壺はあれ星をうつせる山頂の湖 山田富士郎鳥影が放れていつた融けた銅(かね)の執着じみた古い寺堂を 紀野恵石棺にドアノブを描く記憶とは再建手術が可能な骸 堀 隆博マ...
3 塔

「塔」2025年5月号 十首

花の色褪せておれどもその姿いまだとどめる庭の残菊 三井修この宵はホイットマンの詩を読まむ従軍看護師たりし男の 三井修池の表に雪滲みゆくここまでを誰も殺さず殺されず来て 梶原さい子送料の半額払ひ借りうける従軍看護婦の回想の手記 小田桐夕悲鳴を...
2 かりん

「かりん」2025年5月号 十首

まだ萌えずはぜの天辺の細枝も下(しづ)枝(え)も内攻深き沈黙 馬場あき子そういうの、よくない!と子どもが叫ぶ禁止事項をひとつ増やせば 齋藤芳生そういうの、よくない!と思えども言えず新規顧客の獲得のため 齋藤芳生やはらかき肉球に触れ安らけし言...
1 未来

「未来」2025年5月号 十首

貢納を経済援助と言ひ換へてさらさらと金色の海に流すやうだ祖国も 紀野恵前茶碗に輝き落つる数滴を見つむるときに一座はしづむ 門脇篤史黒漆の重ねの箱を仕舞うときはつかに反すこの世のひかり 日下淳いまきみが見ているすべてはいつかきみが失う景色 た...
3 塔

「塔」2025年4月号 十首

橋わたる人から影は伸びており枯れ野をおぎり水上をゆく 吉川宏志岸辺よりしずかに暮れてゆく湖(うみ)の真中はいまだ余光を保つ 三井修おかえりと家路流れるふるさとの海に沈んだ帰れない家 大林幸一郎キジバトの鳴かなくなったふるさとに飼っていく東京...