「未来」2025年7月号 十首

花柄のはだらに落つる藤棚の下なる闇に木漏れ陽は揺る 大辻隆弘

ふくかぜはかをりをはこび枯れ葦の茎うちあへるおとのやさしき 山田富士郎

軽く泛び(水か船ぞこ圧してくるやうな夜な夜な考へ続く) 紀野恵

我は我の枯野をつくる 軽く泛び<単純>を指し馳する如く往く 紀野恵

君子蘭咲かなくなりてなお強し新しき葉に水滴ひかる 日下淳

よべ降るは木の芽起こしの雨にして年ふる梅は若葉を兆す 黒田瞳

花冷えに桜の花も長くもつ重き空気に香りも散らす 黒木正昭

証言者減りゆく中に福木の木の弾痕四個戦時を語る 新城裕子

何もかも飲み込むこともできながらしばし迷ひて帰りゆく波 野城知里

雪色に咲くクロッカスは山吹色の蕊持ち晴の氷雨に打たる 佐藤綾子