地に落ちしものは汚れて木のうえにまだ白き掌のように咲きおり 吉川宏志
撓む枝のかかぐる蕾それぞれにほどけはじめて白木蓮は 花山多佳子
大航海時代にここより発つちし者思えば我の血も騒立てる 三井修
朝六時下弦の月の南天にありて地球とともに陽を浴ぶ 小林信也
切株に物怖じ見せずジョウビタキその場限りの我は視られし 山本建男
小春日を浴びて路傍のいちょう葉は乾いた脈を持て丸まれり 河上類
おおばこの花に登った蟻の見る空にも白い雲が流れる 吉原真
生まれたての朝の陽ざしをカーテンも障子もあけて奥へみちびく 新城研雄
朝ぼらけ 飛ぶかささぎの丸き瞳に染みてゐるらむ冷たき雪が 染川ゆり
閉架書庫で夢を見ている言葉たちの寝息のような六月の雨 ひぞのゆうこ