思ひ出さねば人はどんどん淡くなる誰かのなかのわれの暮れ色 馬場あき子
騎馬戦の開始を告げるピストルが撃ち抜くものは空のみであれ 貝澤駿一
そこぢから自己を肯定する力強くなれよと烏賊刺しを噛む 山口真知子
新入りの涙を拭こうとベテランの二歳児いそぐティッシュを持って 大熊あい子
さまざまな明るき言語咲きみだれ異国になりぬ谷中ビアホール かしたにみかこ
真実はおもてに見えぬならひにてハナミズキの芽とがりて立てり 竹村正一
葦原をするどきこゑにゆきかへるよしきりよひとはものいはず老ゆ 坂井修一
いたく丁寧に神のつくりし葉脈の霊園案内図のやうなしづけさ 川野里子
しなやかに穂先をたわめゆっくりと紙を離れよ生の終筆 舟本惠美
砂に詩を与えしごとく浜茄子の花くれないの声にて灯る 林祐一