「未来」2025年6月号 十首

夜半床にひびかふ杖はわが母が鈍くこの世を渡りゆく音 大辻隆弘

永遠に水をたたふる壺はあれ星をうつせる山頂の湖 山田富士郎

鳥影が放れていつた融けた(かね)の執着じみた古い寺堂を 紀野恵

石棺にドアノブを描く記憶とは再建手術が可能な骸 堀 隆博

マフラーをふんわりと巻く何処かの世にはわたしは嵐であった さとうはな

定型の島の孤独を思うなり海から上がったばかりで寒い 嶋稟太郎

セメントに貝殻混ぜて造りける砲座はなにを護らんとして 馬場紘花

もう時効だから言うけど今朝夢であなたはすごい死に方をした 深山睦美

でも君はインドネシアのコンビニでタバコを売ったりできないだろう 深山睦美

折り鶴が永遠に越冬する国で平和の春を祈り続ける 深山睦美