「塔」2025年5月号 十首

花の色褪せておれどもその姿いまだとどめる庭の残菊 三井修

この宵はホイットマンの詩を読まむ従軍看護師たりし男の 三井修

池の表に雪滲みゆくここまでを誰も殺さず殺されず来て 梶原さい子

送料の半額払ひ借りうける従軍看護婦の回想の手記 小田桐夕

悲鳴を 聞きしがなにもできずずつと忘れられず 頁をめくる 小田桐夕

語つても語つても戦火はとほく雪を脱ぎ飛びたつてゆく鳥 小田桐夕

足元も信用できず泥水に土に埋もれて死ぬ人のあり 大橋春人

冬の息すんと千切れてしまひさう かへしてよわたしたちの糸ぐるま 濱松哲朗

花梨の木低く伐りたる秋過ぎて仏飯のごと初雪積もる 中出佐和子

書いていて障壁に遭うこの先へ枝を伸ばせば花は咲かない 仲町六絵