橋わたる人から影は伸びており枯れ野をおぎり水上をゆく 吉川宏志
岸辺よりしずかに暮れてゆく湖の真中はいまだ余光を保つ 三井修
おかえりと家路流れるふるさとの海に沈んだ帰れない家 大林幸一郎
キジバトの鳴かなくなったふるさとに飼っていく東京の食パン 篠田葉子
寒気団押し寄せてくる 列島の右半身がまず受けとめる 森川たみ子
まさざしをとほくに逃がす 川といふひかりの帯は純粋として 小田桐夕「きんいろ林檎」
北帰行叶はぬ鳥の供養とし津軽の浜に雁風呂を焚く 黒瀬圭子
落とす葉のもうなきことの清しさに耐えつつ銀杏の幹の垂直 神山倶生
乾いてる街から戻り濡れている道の屋台のラーメン匂う 小島順一
感情を載せた小舟が傾いてわたしのなかの白波の数 紙村えい