「塔」2025年4月号 十首

橋わたる人から影は伸びており枯れ野をおぎり水上をゆく 吉川宏志

岸辺よりしずかに暮れてゆく(うみ)の真中はいまだ余光を保つ 三井修

おかえりと家路流れるふるさとの海に沈んだ帰れない家 大林幸一郎

キジバトの鳴かなくなったふるさとに飼っていく東京の食パン 篠田葉子

寒気団押し寄せてくる 列島の右半身がまず受けとめる 森川たみ子

まさざしをとほくに逃がす 川といふひかりの帯は純粋として 小田桐夕「きんいろ林檎」

北帰行叶はぬ鳥の供養とし津軽の浜に雁風呂を焚く 黒瀬圭子

落とす葉のもうなきことの清しさに耐えつつ銀杏の幹の垂直 神山倶生

乾いてる街から戻り濡れている道の屋台のラーメン匂う 小島順一

感情を載せた小舟が傾いてわたしのなかの白波の数 紙村えい