「かりん」2025年4月号 十首

指につまむ塩1g死魚に振りまことしづかな仕事してをり 川野里子

先駆けて河津桜の膨らめり言葉を求めてゆくような永遠 遠藤由季

地上より上がる寒さに水仙が言葉と同じ匂いとどける 中山洋祐

窓越しに眼差し優し月読命(つくよみ)の死者と聖夜の静寂(しじま)を過ごす 本屋敏郎

式子とて(しよう)(ふう)()(げつ)に言かはしぬ季うつろひてただにまぼろし 影山美智子

うつし世の手ざわりわるしオキサリプラチンのしびれのこる指には 古田香里

水紋のただなかに立つ杜若雨の光に洗はれてゆく 渡邊新月

雨に濡れ葉もなき柿の枝にゐる(ひよどり)の黒く長き沈黙 馬場あき子

青鷺の幻影がくる白昼の窓の青さとかさなりながら 渡辺松男

焼け跡のやうな険しき梅の枝摑みて鳥は死を知るごとし 梅内美華子