採る人のなければ柚子の実は落ちるどんどん落ちて坂をころがる 永田和宏
秋景のなかを行くことわたくしの輪郭をときに光へ砕き 梶原さい子
死ぬと言い死ぬ人わずか水面に背びれを出して金色の鯉ゆく 川本千栄
横顔で目があふ鳥の渡りなどおもへり互みに目を逸らすとき 小林真代
翼ではなく飛ぶことが望みだと句跨りするやうに吃りつ 小林真代
あを、みどり、濃いむらさきをつりさげる野葡萄 あなたの真顔のやうだ 小田桐夕
風はきていよいよ激しい火のかたち言葉が無力としても 選んだ 小田桐夕
鏡なす水面にもみぢ映るときみづの時間も紅葉してをり 千葉優作
黄葉紅葉とどのつまりに秋は逝き他界にも火のごとき雪降れ 千葉優作
裾野まで伸びる街路を手で覆い原風景を捉え直せば 真木轍