「かりん」2025年3月号 十首

人外のものとなりゆくはじめにてまづ夢魔と会ふわれの残り() 馬場あき子

味爽のラナンキュラスにふるみぞれいのちは冷ゆる花といえども 大井学

民意とふ立派な車輪ゴリゴリと骨にひびける世事から降りき 土屋千鶴子

よく太つたじやが芋のごとき檸檬(レモン)成る誰に分けようこの野暮つたさ 有働克子

年末の春菊の値に驚きて先発選手のかわるすき焼き 河本まさみ

地中なる紫芋は育ちをりいたくしづかな阿鼻叫喚の色に 川野里子

風は嘘を上手に手触りやわらかく路上の人を消して春くる 中山洋祐

枯れ草が川に倒れてゆく夕べ贈られしペンの書き心地(かな)し 奥山恵

船は行き我はそろそろ起きるから夢の続きを誰も知らない 林祐一

柚子ジャムに作る手順も馴れなじむ三日三晩のゆずのつぶやき 浅岡千枝子