「未来」2025年3月号 十首

冬の日の岸に曳きあげられし舟ゆれゐる草が(ふなべり)を打つ 大辻隆弘

白鳥のわたりはとはにあたらしくぢきに飛び去るのはわたしたち 山田富士郎

世界一古き王統何がなし嬉しみ薬狩りの真似事 紀野惠

口腔に椎茸の香はひらきたり肉の透けたる焼売の美し 門脇篤史

ライターの火をまもるとき手のひらは火にまもられるように明るい 深山睦美

昼食はガリッと齧るアジフライこの音あなたに聞こえているかな 永松智美

ねむってるねこの寝息のすきまから静かにこぼすやきそばのお湯 しま・しましま「なんにもないを」

生きかたとしての不信を肯ひて腹よりほぐす焦げかけの鰺 野城知里

訳ありの人生とまでは思わねど訳ありマロングラッセ甘し 安保のり子

あたらしいビニール傘をさりさりとみぞれまじりの夜に馴染ます しま・しましま