冬の日の岸に曳きあげられし舟ゆれゐる草が舷を打つ 大辻隆弘
白鳥のわたりはとはにあたらしくぢきに飛び去るのはわたしたち 山田富士郎
世界一古き王統何がなし嬉しみ薬狩りの真似事 紀野惠
口腔に椎茸の香はひらきたり肉の透けたる焼売の美し 門脇篤史
ライターの火をまもるとき手のひらは火にまもられるように明るい 深山睦美
昼食はガリッと齧るアジフライこの音あなたに聞こえているかな 永松智美
ねむってるねこの寝息のすきまから静かにこぼすやきそばのお湯 しま・しましま「なんにもないを」
生きかたとしての不信を肯ひて腹よりほぐす焦げかけの鰺 野城知里
訳ありの人生とまでは思わねど訳ありマロングラッセ甘し 安保のり子
あたらしいビニール傘をさりさりとみぞれまじりの夜に馴染ます しま・しましま