後ろから風の寒さがわれにふれ風はひとには言葉与えず 中山洋祐
台風の掻き乱したる山の木を切り整える天の僕は 本屋敏郎
通るたび腰折り礼なす姥の庭ばらは喪のごと滅紫なる 影山美智子
渡海船のあゆみの板を踏み外すような生き方島に帰ろう 檜垣実生
灯の点かぬ家にあまたの木槿散りいま一輪がはさりと落ちる 池田玲
冬薔薇あかあかと咲く花色を葉先に移し寒を咲き継ぐ 一木千尋
週末は一人でランチを食べるから手帳に記す「絶望パスタ」 平野淳子
給餌せし机に涙は落つなおも置かれしままのシリンジに傷 宮内翠々
扇の骨二本開いて載せる笛丁寧にそつとけふは序之舞 馬場あき子
いくらでも塗り替へられる今日とほく聴きゐる始発の鉄路のひびき 松本典子