裂深きぶどうの葉なりその裂の深さに世界分断されつ 三井修
火明かりにただ濡れてをりいつかしら逢へざる日々の落葉の嵩 梶原さい子
夕映えが山国川を滑りゆくひと日を終へる火照り率ゐて 祐德美惠子
どの家も飢饉に強き柿の木を植ゑたる里に人の消えゆく 黒瀬圭子
青紫蘇に白き小花の咲く朝をほつそりとせる燕飛び交ふ 竹下文子
真っ黒き針金となり傾いた彼岸花の最後を看取る ヤスイシンゴ
破れたる空気人形「復興」と吹き込まれるたび萎みゆく我 海野久美
「心エコー」心に木霊があるのならわたしはなんとくり返すのか 髙鳥ふさ子
歌人とは光を感じる脳をもち言語化できる冬のさなかも 前橋由起子
遺体のせ青空をゆく飛行機は一瞬光り見えなくなった 前橋由起子