「未来」2025年2月号 十首

(しん)(しう)の水のながるる川底にけふの落ち葉の褐色(かちいろ)と黄と 大辻隆弘

(あかがね)を喰らふ経世済民といふ四字熟語 天平より此方 紀野恵

薪能秋の嵐を舞い納め照らされ戻る残りの生に 大田美和

立冬も過ぎこしこの朝あたたかく軽トラックは葱つみて行く 多田草

「例文の通りに生きるなんて嫌」ベティはジャックのペンを奪った 高橋泰源

夏の陽を濾過する柿の葉の蔭に八十五歳のスローなスイング 重松美智加

秘め置きし秋の形見か琥珀色の蟬の片翅舗道を流る 山中綾子

崩れても育てなおして調える寄せ植えみたいな猫との暮らし 青山みのり

ある葛は越えてはいけない雨水路を越えて人から踏みしだかれて 秋田哲

ランタナの花に埋もれて廃屋は黒い木組みをあたためている 池田蓬