深秋の水のながるる川底にけふの落ち葉の褐色と黄と 大辻隆弘
銅を喰らふ経世済民といふ四字熟語 天平より此方 紀野恵
薪能秋の嵐を舞い納め照らされ戻る残りの生に 大田美和
立冬も過ぎこしこの朝あたたかく軽トラックは葱つみて行く 多田草
「例文の通りに生きるなんて嫌」ベティはジャックのペンを奪った 高橋泰源
夏の陽を濾過する柿の葉の蔭に八十五歳のスローなスイング 重松美智加
秘め置きし秋の形見か琥珀色の蟬の片翅舗道を流る 山中綾子
崩れても育てなおして調える寄せ植えみたいな猫との暮らし 青山みのり
ある葛は越えてはいけない雨水路を越えて人から踏みしだかれて 秋田哲
ランタナの花に埋もれて廃屋は黒い木組みをあたためている 池田蓬