どんぐりの小枝を折りて持ちゆくに落とせり四方に弾けとびたり 花山多佳子
栗茹でて冷めるを待てばおのづから齢深まる日日を諾ふ 干田智子
海亀の巣穴の変化確かめて星と海とのはざまに座せり 河野正
もうゐないひとに掛かつてくる電話かみふうせんのやうに転がる 濱松哲朗
未知の地にたどりついたらまづ足を砂でよごして みたいに書を読む 小田桐夕
帆走のなき船にのるわれらみな流されてゆく赤き月の夜 黒瀬圭子
洛陽の丸き月餅など供え明日は欠けゆく月と語れり 谷口結
忘れない記憶も釦をかけるたび蘇れども私に似合う 中森舞
すばやく川をよこぎってゆく鳥がいて水面はそれを見ていたのだが 日下踏子
目も口もぴつたり閉ぢて眠る君は主権国家としてのしづかさ 空岡邦昂