「塔」2025年1月号 十首

どんぐりの小枝を折りて持ちゆくに落とせり四方よもに弾けとびたり 花山多佳子

栗茹でて冷めるを待てばおのづから齢深まる日日を諾ふ 干田智子

海亀の巣穴の変化確かめて星と海とのはざまに座せり 河野正

もうゐないひとに掛かつてくる電話かみふうせんのやうに転がる 濱松哲朗

未知の地にたどりついたらまづ足を砂でよごして みたいに書を読む 小田桐夕

帆走のなき船にのるわれらみな流されてゆく赤き月の夜 黒瀬圭子

洛陽の丸き月餅など供え明日は欠けゆく月と語れり 谷口結

忘れない記憶も釦をかけるたび蘇れども私に似合う 中森舞

すばやく川をよこぎってゆく鳥がいて水面はそれを見ていたのだが 日下踏子

目も口もぴつたり閉ぢて眠る君は主権国家としてのしづかさ 空岡邦昂