「かりん」2025年1月号 十首

年はじめ「人間憂ひの花ざかり」と古き世のうた謡ひ嘆かふ 馬場あき子

いくすぢも飛行機雲のほぐれそめ蛇腹のごとく街の覆ふ 三原豪之

石鹸玉凍りゆく朝そのままに千年浮かぶを祝ひつづけむ 渡邊新月

アカゲラの木をつつく音とわれが枝踏み折る音の距離を確かむ 丸地卓也

釣り具屋の灯りを残し暮れてゆく秋の短し敦賀の街は 林祐一

結球せぬキャベツの葉つぱは外交的性格を得てひろがるひろがる 川野里子

抱きしめるちからなくししキャベツにて苦しみぬきし愛のやうなる 川野里子

たれの目にも触れぬ緑の幽谷のしたたりの香気抱きて飛びかふ 日置俊次

読んでゐるミステリィに足を載せて餌をねだる猫なりかれに謎はなし 寺井淳

老梅の抜けたる穴に花水木 昨日を知らぬもの植ゑられぬ 浅岡博司