京四条烏丸の雨せつなくて語り継ぎなむひとつだになし 大辻隆弘
わが残す文字はおのが生きの身の知らぬ後の世見むと思へば 紀野恵
海の日はたましい悼む日なりしにいつより海よあなたをいたむ 中原千絵子
たましいの心理きか植物は日常的空間に軌跡を伸ばす 大滝和子
老いよ病と死の傍らを 野樹かずみ
夏引の糸瓜の棚に葉はしげり継ぐべきものは血のみにあらず 馬場紘花
雅楽の音に吸い込まれつつきらとひかる衣装の絹連れ響く 高見里香
防錆の行き届かない魂が通勤の度かすかに軋む 酒井景二朗
着たままに切り取って貰う襟の値札老蝶は折れた鶏頭を吸う 北見柊
いましがた慈雨とおもひし雨粒のゲリラとなりて隧道を攻む 上仲まさみ